アベノミクス相場

異次元金融緩和期

Market History DB / Market Phase

アベノミクス相場

2012-11-14 – 2015-06-24

政策が、未来の価格を変えた

長期デフレと円高を前提としてきた日本市場が、 政権交代期待、 大胆な金融緩和、 財政政策、 成長戦略によって、 デフレ脱却と名目成長を 初めて本格的に価格へ織り込み始めたフェーズ。 円安による企業利益改善、 外国人投資家の日本株買い、 資産価格上昇、 企業統治改革が重なり、 「日本は変わらない」という長年の市場認識そのものが 修正された。

相場は、 政策が実行された日に 始まるとは限りません。

市場は、 未来を先に価格へ織り込みます。

2012年11月14日。

野田佳彦首相が党首討論で、 衆議院を11月16日に解散する意向を表明しました。

市場が見たのは、 解散そのものではありません。

その先にある 政権交代の可能性でした。

そして、 次の政権によって 日本の金融・経済政策そのものが 変わる可能性でした。

それまでの日本市場には、 長い経験によって形成された 強固な前提がありました。

物価は上がらない。

賃金も上がらない。

円は強い。

名目GDPは伸びない。

日本株は長期的には上がらない。

企業は国内ではなく、 海外で成長する。

これは単なる悲観論ではありませんでした。

1990年代から続いた バランスシート調整、 金融危機、 デフレ、 円高を経験する中で、 企業、家計、投資家が 合理的に形成した行動様式でした。

前フェーズ 「震災・円高調整相場」では、 その構造が限界まで明確になります。

世界金融危機は終わった。

欧州債務危機も 政策によって安定へ向かった。

東日本大震災からの 復旧も進んだ。

それでも、 日本経済は力強い成長へ戻れませんでした。

市場が最後に疑ったのは、 個別の危機ではありません。

日本の政策レジームそのもの でした。

だからこそ、 2012年末に市場が反応したのは、 単なる選挙期待ではありませんでした。

市場が買い始めたのは、 政策レジームが変われば、 日本経済を支配してきた前提も 変わるかもしれない という可能性でした。

ここから、 為替が動きます。

円高修正が始まります。

株価が上昇します。

外国人投資家が 日本株へ戻ります。

企業利益への期待が 改善します。

そして2013年、 政策期待は 実際の政策へ変わります。

第2次安倍政権は、 大胆な金融政策、 機動的な財政政策、 民間投資を喚起する成長戦略という 「三本の矢」を掲げました。

さらに、 日本銀行では 黒田東彦総裁の下で、 従来とは規模もコミットメントも異なる 金融緩和が始まります。

重要なのは、 金利が下がったことだけではありません。

日本銀行が市場に対して、 デフレを終わらせる意思を 明確に示した ことです。

長年、 「日本では物価は上がらない」 という期待の中で行動してきた市場に、

「物価を上げることを 政策主体自身が目標にする」 という新しい前提が持ち込まれました。

長期デフレ

政策転換期待

円高修正

輸出企業利益改善期待

外国人投資家の日本株買い

株価上昇

資産効果・企業心理改善

デフレ脱却期待

ここで、 前フェーズとの違いが 明確になります。

震災・円高調整相場では、 政策は 危機を止めるため に使われていました。

金融システムを守る。

市場へ流動性を供給する。

震災後の決済を守る。

欧州信用危機の波及を防ぐ。

政策の目的は、 悪化を止めることでした。

アベノミクス相場では、 政策の役割が変わります。

守る政策から、 期待を変える政策 へ。

デフレを前提としていた 企業、家計、投資家の行動そのものを 変えることが政策目標になります。

震災・円高調整相場 アベノミクス相場
危機を止める 期待を変える
金融システム安定 デフレ脱却
円高への対応 円高レジームの修正
流動性供給 大規模金融緩和
低成長を前提 名目成長への期待
企業の海外逃避 日本株の再評価
危機対応型政策 期待形成型政策

そして、 この変化を最も早く映したのが 為替と株式市場でした。

実体経済が変わる前に、 円が動いた。

企業利益が実際に増える前に、 株価が動いた。

賃金が上昇する前に、 外国人投資家が日本株を買った。

市場は、 政策によって変わる未来 を先に買ったのです。

危機が終わったから、 株価が上がったのではない。

市場は、

日本の未来を決めてきた前提が 変わる可能性を買った。

  1. フェーズ概要
    1. 相場推移と主要イベント
      1. この期間の出来事
  2. アベノミクスは、景気対策ではなくレジーム転換だった
  3. アベノミクスは「三本の矢」で期待を作った
  4. 黒田日銀のQQEは、金融政策の意味を変えた
  5. 円安は、企業利益を最も速く変えた
  6. 外国人投資家は、日本の「変化」を買った
  7. 株高が、政策への信認を強めた
  8. 相場の中心銘柄群も変わった
  9. しかし、株価と実体経済は同じ速度では動かなかった
  10. 2014年の消費税率引き上げは、金融市場と実体経済を衝突させた
  11. 追加緩和が、政策相場をもう一度押し上げた
  12. Part2の結論
  13. アベノミクスは、企業経営そのものへ踏み込んだ
  14. 小泉構造改革相場で芽生えたものが、制度になった
  15. JPX日経インデックス400は、企業へ新しい競争を作った
  16. スチュワードシップ・コードは、株主を変えた
  17. コーポレートガバナンス・コードは、経営者を変えた
  18. 現金を持つことが、必ずしも評価されなくなった
  19. GPIFは、市場需給の構造も変えた
  20. 企業価値改革は、円安相場を長期テーマへ変えた
  21. Part3の結論
  22. Regime Drivers
  23. Policy Drivers
  24. Market Transmission Drivers
  25. Corporate Reform Drivers
  26. Global Drivers
  27. Driver Interaction
  28. しかしDriverの中に、次の調整要因も生まれていた
  29. Part4の結論
  30. machine_phase
  31. machine_phase一覧
  32. machine_phase Flow
  33. アベノミクス相場は、内部で四段階に進化した
  34. 第1段階|市場は政策を先に買った
  35. 第2段階|期待はQQEによって政策へ変わった
  36. 第3段階|円安が利益へ変わった
  37. 第4段階|企業経営が株価材料になった
  38. 中心銘柄群も、フェーズ内部で変化した
  39. 企業利益は改善した。しかし国内経済の弱さは残った
  40. 2015年、相場の問いが変わり始めた
  41. なぜ2015年6月24日までなのか
  42. Phase End Signal
  43. 成功条件が、次の脆弱性になった
  44. Part5の結論
  45. MHDB Classification
    1. 政策主導・デフレ脱却サイクル
    2. アベノミクス相場
    3. Policy Expectation Shift
    4. FX Regime Repricing
    5. Monetary Expansion
    6. EPS Recovery
    7. Foreign Capital Inflow
    8. Equity Re-rating
    9. Public Equity Support
    10. Governance Repricing
    11. Household Demand Weakness
    12. External Growth Dependence
    13. 政策が、未来の価格を変えた
  46. デフレ停滞期から何が変わったのか
  47. アベノミクス相場が本当に壊したもの
  48. しかし、価格を変えることと経済構造を変えることは同じではない
  49. 企業統治改革は、このフェーズ後も残った
  50. 次フェーズへの接続
    1. 中国ショック・世界景気調整相場
  51. アベノミクス相場が残したもの
  52. まとめ
  53. 参考資料

フェーズ概要

  • Market Cycle: 政策主導・デフレ脱却サイクル
  • Market Phase: アベノミクス相場
  • 期間: 2012年11月14日 ~ 2015年6月24日
  • 開始条件: 衆議院解散と政権交代の可能性が明確になり、市場が長期デフレ・円高を所与とする従来レジームから、大胆な金融緩和とデフレ脱却政策を先行して織り込み始めた
  • 終了条件: 円高修正、企業利益改善、外国人投資家の資金流入、追加金融緩和、企業統治改革による日本株再評価が進展し、日経平均が2000年以来の高値圏へ到達する一方、政策期待だけで上昇する初期レジームが成熟し、中国景気・世界需要・実体経済との乖離が次の調整要因として強まった
  • 主要構造: アベノミクス、三本の矢、デフレ脱却、円高修正、異次元金融緩和、財政政策、成長戦略、企業利益改善、外国人投資家、日本株再評価
  • Global Drivers: Global Monetary Easing、US Recovery、Global Risk Appetite、Dollar Strength、Foreign Portfolio Flow
  • Domestic Drivers: Abenomics、Policy Regime Change、QQE、Yen Depreciation、EPS Recovery、Fiscal Expansion、Corporate Governance Reform
  • 政策構造: 2%物価安定目標、大胆な金融緩和、量的・質的金融緩和、機動的財政政策、成長戦略、法人・企業統治改革を通じてデフレ期待そのものの転換を目指した
  • 主要な市場参加者: 外国人投資家、輸出企業、国内機関投資家、日本銀行、政府、GPIF、個人投資家
  • Human Theme: 政策が、未来の価格を変えた
  • 市場心理: 長期停滞への諦観から政策転換への期待へ移行し、円安と株高が政策への信認をさらに強める自己強化的な期待形成が生まれた
  • 内部矛盾: 金融市場では円安・株高・企業利益改善が先行した一方、実質賃金、国内消費、設備投資、潜在成長率まで同じ速度で改善したわけではなく、金融市場と実体経済の間に乖離が残った
  • 次フェーズ: 中国ショック・世界景気調整相場

相場推移と主要イベント

本フェーズの日経平均株価と主要イベントです。 2012年11月の政権交代期待から始まり、 第2次安倍政権発足、 2%物価安定目標、 黒田日銀による量的・質的金融緩和、 円高修正と外国人投資家の日本株買い、 成長戦略、 2014年の消費税率引き上げ、 追加金融緩和、 GPIFの資産構成変更、 企業統治改革を経て、 2015年6月に日経平均が2000年以来の高値圏へ到達するまでの 政策レジームと市場構造の変化を確認できます。

初期表示:2012-11-14 〜 2015-06-24 / 取得範囲:1950-01-01 〜 2026-08-21 / イベント重要度:1以上

この期間の出来事

アベノミクスは、景気対策ではなくレジーム転換だった

アベノミクスを、 単なる大型景気対策として理解すると、 この相場の本質を見誤ります。

公共事業を増やしたから 株価が上がった。

金融緩和をしたから 円安になった。

それだけではありません。

アベノミクスが市場へ与えた最大の変化は、 「日本ではデフレが続く」 という期待を政策によって変えようとしたこと でした。

これは、 それ以前の危機対応政策とは 性質が異なります。

金融危機への対応では、 壊れた信用を修復します。

震災への対応では、 失われた生産能力を復旧します。

しかし、 デフレへの対応では、 人々が未来をどう予想するか そのものを変えなければなりません。

企業が、 「来年も価格は上がらない」 と考えていれば、 値上げをためらいます。

家計が、 「急いで買わなくても、 将来も価格は変わらない」 と考えていれば、 支出を先送りできます。

投資家が、 「日本企業の名目利益は 長期的に伸びない」 と考えていれば、 日本株へ高い評価を与えません。

つまりデフレとは、 物価指数だけの問題ではありません。

企業。

家計。

投資家。

それぞれの意思決定に埋め込まれた 一つのレジームです。

アベノミクスが挑戦したのは、 そのレジームでした。

デフレ期待

価格据え置き

名目売上停滞

賃金抑制

消費停滞

デフレ期待

政策レジーム転換

インフレ期待形成

円高修正

企業利益期待改善

株価上昇

アベノミクスが最初に変えたのは、 GDPではない。

賃金でもない。

企業の設備投資でもない。

最初に変えたのは、

「日本は変わらない」 という市場の前提だった。

Part 2

アベノミクスは「三本の矢」で期待を作った

アベノミクスは、 一つの政策ではありません。

大胆な金融政策。

機動的な財政政策。

民間投資を喚起する成長戦略。

この「三本の矢」を 同時に提示したことに意味がありました。

金融政策だけでは、 期待は長続きしない。

財政政策だけでは、 一時的な需要創出にとどまりやすい。

成長戦略だけでは、 効果が見えるまで時間がかかる。

三つを組み合わせることで、 「政策レジーム全体が変わる」 という印象を 市場へ与えました。

市場が最初に買ったのは、 個別政策の成果ではありません。

政策の組み合わせが 企業利益と物価期待を 同時に変える可能性でした。

政策 役割 市場が期待したもの
大胆な金融政策 デフレ期待の転換 円高修正・資産価格上昇
機動的な財政政策 景気下支え 需要回復・企業収益改善
成長戦略 潜在成長率引き上げ 設備投資・企業価値向上

市場が買ったのは、 一つの政策ではない。

政策全体が同じ方向を向き始めたことだった。

黒田日銀のQQEは、金融政策の意味を変えた

2013年、 日本銀行は 量的・質的金融緩和へ踏み込みます。

重要なのは、 単に国債を多く買ったことではありません。

従来よりもはるかに強い形で、 2%の物価安定目標を達成する意思 を市場へ示したことです。

金融政策の役割が、 市場の混乱を抑えること から、 期待インフレ率そのものを 引き上げることへ変わりました。

これは、 震災・円高調整相場までの政策と 大きく異なります。

危機時の金融緩和では、 市場参加者が求める現金を供給します。

アベノミクス下の金融緩和では、 将来の物価と為替に対する予想 を変えようとしました。

QQE

マネタリーベース拡大

デフレ脱却へのコミットメント

期待インフレ率上昇期待

実質金利低下期待

円安

株高

市場は、 政策効果を確認してから 動いたわけではありません。

政策主体が これまでとは違う行動を取ると判断した瞬間に、 価格が動きました。

円安は、企業利益を最も速く変えた

アベノミクスの効果が 最も早く現れた経路の一つが、 為替でした。

前フェーズでは、 円高が日本企業利益を圧迫しました。

輸出企業は、 海外で利益を上げても、 円換算すると利益が小さくなりました。

国内生産の採算も悪化し、 海外生産移転が進みました。

その円高が修正されると、 同じ構造が逆方向へ動きます。

円安

海外売上の円換算額増加

輸出企業利益改善

EPS上方修正

株価上昇

企業心理改善

ここで重要なのは、 売上数量が大きく増えなくても、 為替だけで 円建て利益が改善する企業が存在したことです。

そのため、 実体経済の回復よりも 株式市場の利益予想が先に改善しました。

Yen Depreciation → EPS Recovery

アベノミクス初期相場では、 経済成長率よりも先に 為替が企業利益予想を変えた。

外国人投資家は、日本の「変化」を買った

アベノミクス相場を語るうえで、 外国人投資家の存在は欠かせません。

海外投資家にとって、 日本市場は長い間、 低成長。

デフレ。

低ROE。

株主還元の弱さ。

人口減少。

こうしたイメージで 評価されていました。

アベノミクスは、 その前提を変える可能性を示しました。

円安。

企業利益改善。

ROE改革。

株主還元。

コーポレートガバナンス。

海外投資家が買ったのは、 単なる日経平均の上昇ではありません。

日本企業の評価基準そのものが 変わる可能性 でした。

旧来の日本株評価 アベノミクス下の再評価
低成長 名目成長期待
円高 円高修正
低ROE 資本効率改善期待
持ち合い 株主価値重視
現金保有 自社株買い・配当
海外で成長 日本株として再評価

外国人投資家が買ったのは、 日本の現在ではない。

日本が変わるという可能性だった。

株高が、政策への信認を強めた

アベノミクス相場には、 自己強化的な構造がありました。

政策期待が 株価を上げる。

株価上昇が 企業と家計の心理を改善する。

円安が 企業利益を押し上げる。

利益改善が さらに株価を押し上げる。

株高そのものが、 「政策は効いている」 という認識を 市場参加者へ与えました。

政策期待

円安・株高

企業利益改善

市場心理改善

外国人資金流入

さらなる株高

政策信認強化

この循環は、 平成バブルの資産価格上昇とは異なります。

土地価格が信用を生み出すのではなく、

政策期待が企業利益期待を変え、 利益期待が資産価格を押し上げる 循環でした。

相場の中心銘柄群も変わった

アベノミクス相場では、 政策レジーム転換の恩恵を 受けやすい銘柄群が 市場を主導しました。

円安恩恵。

株式市場活況。

不動産価格回復。

設備投資回復。

消費回復期待。

これらのDriverによって、 幅広い銘柄群が 再評価されました。

中心銘柄群 代表例 市場が評価した構造
自動車 トヨタ自動車、ホンダ、富士重工業 円安・海外利益・EPS改善
電機・電子 ソニー、パナソニック、日立製作所 円高修正・事業再編・利益回復
証券 野村ホールディングス、大和証券グループ 株式市場活況・売買代金増加
銀行 三菱UFJ、三井住友FG、みずほFG 景気回復期待・株価上昇
不動産 三井不動産、三菱地所、住友不動産 資産価格上昇・金融緩和
建設 大成建設、大林組、鹿島 財政政策・震災復興・都市投資
輸出・機械 ファナック、コマツ、キーエンス 世界景気・円安・設備投資

上記は本フェーズの構造を説明するための代表的な中心銘柄群です。 個別銘柄の騰落率、主導期間、売買代金、指数寄与度は、 今後の横断リライト時に市場データを用いて再検証します。

しかし、株価と実体経済は同じ速度では動かなかった

アベノミクス相場では、 金融市場の変化が 実体経済より先に進みました。

円は動きました。

株価も上がりました。

企業利益も改善しました。

しかし、 家計所得や消費まで 同じ速度で改善したわけではありません。

ここに、 このフェーズの内部矛盾があります。

株主から見れば、 企業利益は改善している。

しかし家計から見れば、 輸入物価上昇によって 生活コストが上がる。

企業は円安の恩恵を受けても、 賃金上昇が十分でなければ、 家計の実質購買力は改善しません。

金融市場 実体経済
株価上昇 消費回復は限定的
円安 輸入物価上昇
企業利益改善 実質賃金改善は遅い
外国人資金流入 国内需要は力強さを欠く
資産価格上昇 家計への資産効果は均一ではない

市場は変わった。

企業利益も変わった。

しかし、

家計の景色まで 同じ速度で変わったわけではなかった。

2014年の消費税率引き上げは、金融市場と実体経済を衝突させた

2014年4月、 消費税率が引き上げられました。

この出来事は、 アベノミクス相場の内部矛盾を 明確にする重要な転換点でした。

金融政策は、 デフレ脱却を目指していました。

円安と株高によって、 企業利益も改善していました。

一方で、 消費税率引き上げは、 家計の可処分所得と消費へ 下押し圧力を与えます。

つまり、 金融政策は需要を押し上げようとし、 財政政策の一部は需要を抑える方向へ働いた 局面が生まれました。

金融緩和

円安・株高

企業利益改善

一方

消費税率引き上げ

家計負担増加

消費減速

実体経済回復の鈍化

ここで、 アベノミクスが抱える 政策内部の難しさが明確になります。

期待を変えること。

財政を維持すること。

消費を増やすこと。

企業利益を増やすこと。

すべてを同時に達成することは 容易ではありませんでした。

追加緩和が、政策相場をもう一度押し上げた

消費の弱さと 物価上昇の勢いが十分でない中、 市場では再び 政策対応への期待が強まります。

2014年秋、 日本銀行は追加金融緩和へ踏み込みました。

同時期には、 公的年金資産の運用構成見直しも 市場の需給構造へ大きな意味を持ちます。

市場は再び、 政策主体が株式・為替・物価を 支え続ける という認識を強めます。

ここでアベノミクス相場は、 初期の政策期待相場から、 政策実行と需給が株価を支える相場 へ成熟していきました。

消費減速

物価目標達成への不安

追加金融緩和

公的資金の株式配分拡大

円安

日本株需給改善

株価再上昇

Part2の結論

アベノミクス相場の初期を支えたのは、 景気回復そのものではありません。

政策転換への期待でした。

その期待は、 QQEによって 実際の政策へ変わりました。

金融緩和は円高を修正し、 円安は企業利益予想を改善しました。

企業利益改善は、 外国人投資家を日本株へ呼び戻しました。

株高は、 政策への信認をさらに強めました。

こうして、 政策期待と市場価格が 自己強化的に動くレジームが形成されました。

しかし、 金融市場の改善と 実体経済の改善は 同じ速度では進みませんでした。

2014年の消費税率引き上げは、 その乖離を明確にしました。

そして、 追加金融緩和と公的資金の運用変更によって、 相場は再び政策主導で押し上げられます。

政策が期待を変えた。

期待が為替を変えた。

為替が利益を変えた。

利益が株価を変えた。

そして株価が、

政策そのものへの信頼を強めた。

次のPartでは、 アベノミクス後半で重要になる 企業統治改革を扱います。

ROE。

JPX日経インデックス400。

スチュワードシップ・コード。

コーポレートガバナンス・コード。

自社株買い。

配当。

持ち合い株式。

そして、 「日本企業は利益を出すだけでなく、 資本をどう使うべきか」 という新しい評価軸が どのように市場へ定着していったのかを整理します。

Part 3

アベノミクスは、企業経営そのものへ踏み込んだ

アベノミクス相場の初期を動かしたのは、 金融政策でした。

円高修正。

株価上昇。

外国人投資家の資金流入。

企業利益改善。

しかし、 円安だけで 日本企業の価値が永続的に高まるわけではありません。

為替が変われば、 利益も変わります。

世界景気が悪化すれば、 輸出企業の利益も減少します。

市場が次に求めたのは、 企業自身が資本を効率的に使い、 継続的に企業価値を高めること でした。

ここで、 アベノミクスは 金融政策から 企業統治改革へ広がっていきます。

ROE。

資本コスト。

配当。

自社株買い。

持ち合い株式。

社外取締役。

経営者と株主の関係。

日本企業が 「利益を出しているか」だけではなく、

「預かった資本を どれだけ効率的に利益へ変えているか」 が問われるようになります。

市場は、 円安で利益が増える企業だけではなく、

資本を利益へ変えられる企業を 評価し始めた。

小泉構造改革相場で芽生えたものが、制度になった

ROEや株主価値という考え方は、 アベノミクス期に突然生まれたものではありません。

2003年からの 小泉構造改革相場では、 外国人投資家、 M&A、 アクティビスト、 持ち合い解消を通じて、 企業価値を 資本効率から評価する考え方が 市場へ入り始めていました。

当時は、 まだ市場参加者による圧力という側面が強いものでした。

アベノミクス期になると、 その考え方が 制度として企業経営へ組み込まれていきます。

小泉構造改革相場 アベノミクス相場
外国人投資家がROEを要求 ROE改善が政策課題になる
村上ファンドなどが株主価値を要求 機関投資家の対話が制度化される
持ち合い解消が進む 政策保有株式の合理性が問われる
M&Aが企業価値を揺さぶる 経営者が資本効率を説明する
株主価値という概念が浸透 株主価値が制度へ組み込まれる

つまり、 2003年から始まった企業改革が、 約10年を経て 制度的な企業統治改革へ移ったと見ることができます。

JPX日経インデックス400は、企業へ新しい競争を作った

企業評価の変化を象徴したものの一つが、 JPX日経インデックス400です。

従来の主要株価指数では、 時価総額や株価などが 重要な構成要素でした。

しかし、 企業価値をより強く意識する指数が登場したことで、 企業側にも 「投資家から選ばれる企業になる」 という意識が生まれます。

利益。

ROE。

企業統治。

投資家との対話。

単に大企業であることではなく、 資本効率の高い企業であることが 市場評価へ結び付きました。

新しい企業間競争

商品や市場シェアだけで競うのではない。

資本市場から 「投資対象として選ばれる企業」になることも、 企業競争の一部になった。

スチュワードシップ・コードは、株主を変えた

企業統治改革では、 企業側だけが変わったわけではありません。

機関投資家にも、 新しい役割が求められました。

株式を保有する。

値上がりを待つ。

それだけではなく、 企業と対話し、 経営を評価し、 議決権を行使し、 長期的な企業価値向上へ関与する。

投資家自身が 企業統治の一部になるという考え方です。

これによって、 日本株市場では 企業と株主の関係そのもの が変わり始めました。

株式保有

企業との対話

資本効率を確認

議決権行使

経営改善要求

企業価値向上

コーポレートガバナンス・コードは、経営者を変えた

企業側にも、 資本市場との関係を より明確に説明することが求められます。

取締役会は 十分に経営を監督しているか。

独立した社外取締役はいるか。

余剰資本を どう使うのか。

持ち合い株式を なぜ保有しているのか。

利益を内部留保するのか。

投資するのか。

配当するのか。

自社株を買うのか。

経営者の仕事は、 企業を運営することだけではなく、 資本をどう配分するか まで含むようになります。

従来 新しい企業評価
利益額 ROE
売上規模 利益率
内部留保 資本配分
持ち合い 株主価値
経営者中心 取締役会による監督
安定株主 投資家との対話

現金を持つことが、必ずしも評価されなくなった

平成バブル崩壊後、 日本企業は 長い間財務健全性を優先しました。

借金を減らす。

現金を積む。

設備投資を慎重にする。

この行動は、 バブル崩壊後の企業経営として合理的でした。

しかし、 企業財務が正常化した後も 現金を積み続ければ、 株主は新しい疑問を持ちます。

その資本を 何に使うのか。

投資機会がないのであれば、 なぜ株主へ返さないのか。

ここから、 配当。

自社株買い。

M&A。

成長投資。

といった資本配分が 企業評価へ直接反映されるようになります。

かつては、 現金を持つことが安全だった。

しかし市場は次第に、

その現金で何をするのか を問うようになった。

GPIFは、市場需給の構造も変えた

アベノミクス相場では、 企業価値だけではなく、 株式市場の需給構造も変化しました。

その象徴の一つが、 公的年金資産の運用構成見直しです。

巨大な長期資金が、 国債中心の運用から 国内外の株式を含む より分散された資産配分へ移る。

これは、 単なる一投資家の売買ではありません。

日本株を保有する主体の構造が 変化することを意味します。

外国人投資家だけでなく、 公的年金、 国内機関投資家、 企業の自社株買いなど、 複数の買い主体が 市場へ存在するようになりました。

外国人投資家

公的年金

日銀ETF買入

企業自社株買い

日本株需給改善

ここで、 アベノミクス相場には もう一つの特徴が生まれます。

株価が 企業利益だけで決まるのではなく、 政策と資金フローによっても 強く支えられる相場 になったことです。

企業価値改革は、円安相場を長期テーマへ変えた

もしアベノミクスが 円安だけで終わっていれば、 為替が反転した時点で 相場の物語も終わっていた可能性があります。

しかし、 企業統治改革が加わったことで、 日本株再評価には 別の理由が生まれました。

円安だから利益が増える。

だけではない。

資本効率が改善する。

株主還元が増える。

企業統治が改善する。

企業価値そのものが 高まる可能性がある。

市場は、 日本株を単なる為替取引ではなく、 企業改革の投資対象として 見るようになりました。

アベノミクス相場の二段階

前半: 政策転換 → 円安 → EPS改善 → 株高

後半: 企業統治改革 → ROE改善 → 株主還元 → 日本株再評価

Part3の結論

アベノミクス相場は、 円安株高だけの相場ではありません。

政策転換によって 為替と企業利益が変わった後、 市場の焦点は 企業経営へ移りました。

ROE。

資本効率。

自社株買い。

配当。

持ち合い株式。

社外取締役。

投資家との対話。

小泉構造改革相場で 市場から企業へ向けられた要求が、 アベノミクス相場では 制度として組み込まれ始めました。

市場が評価したものは、 「円安になれば利益が増える企業」 から、

「資本を効率的に使い、 持続的に企業価値を高められる企業」 へ広がりました。

政策が為替を変えた。

為替が利益を変えた。

そして最後に、

市場は企業経営そのものを 変え始めた。

Part 4

Regime Drivers

アベノミクス相場は、 金融緩和だけで形成された相場ではありません。

政策転換。

金融政策。

為替。

企業利益。

外国人資金。

企業統治。

株式需給。

これらが相互作用することで、 長期デフレ下の日本株評価が 大きく修正されました。

したがって、 本フェーズのDriverは、 Policy Driver を起点として、 Market Transmission Driver Corporate Reform Driver へ波及する構造として整理します。

Policy Drivers

Driver 構造 市場への作用
Policy Regime Change デフレ脱却を明確な政策目標へ 「日本は変わらない」という期待を修正
QQE 量的・質的金融緩和 金融政策へのコミットメントを強化
Inflation Target 2%物価安定目標 将来物価への期待形成を試みる
Fiscal Expansion 景気下支え・公共投資 需要不足を補完
Growth Strategy 規制改革・成長政策 潜在成長率改善への期待
Additional Monetary Easing 追加緩和 政策信認と株式需給を再強化

Market Transmission Drivers

Driver 構造 市場への作用
Yen Depreciation 円高レジーム修正 輸出・海外利益の円換算額を改善
EPS Recovery 企業利益予想上昇 株価の利益面を支援
Foreign Equity Inflow 海外投資家資金流入 大型株・指数上昇を主導
Equity Re-rating 日本株評価倍率修正 長期停滞ディスカウントを縮小
Asset Price Recovery 株式・不動産など資産価格上昇 企業・家計心理を改善
Public Equity Demand 公的年金・日銀等の株式需要 株式市場の需給を下支え

Corporate Reform Drivers

Driver 構造 企業価値への作用
ROE Reform 資本効率重視 利益額だけでなく資本生産性を評価
Governance Reform 取締役会・社外取締役・情報開示 経営監督と透明性を改善
Stewardship Reform 機関投資家の対話強化 株主が企業価値向上へ関与
Shareholder Return Expansion 配当・自社株買い 余剰資本を株主へ還元
Cross-shareholding Reduction 政策保有株見直し 資本効率と市場規律を強化
Capital Allocation Reform 投資・M&A・還元の最適化 経営者の資本配分能力を評価

Global Drivers

Driver 構造 日本株への作用
Global Monetary Easing 主要中央銀行の低金利政策 世界的なRisk Asset需要を支援
US Recovery 米国景気回復 輸出・世界需要を支援
Dollar Strength 米国金融政策正常化期待 円安方向を補強
Global Risk Appetite 世界金融危機後のリスク許容度改善 外国人資金を日本株へ誘導
China Growth Dependence 中国需要への依存継続 後半の脆弱性として蓄積

Driver Interaction

Policy Regime Change

QQE

Yen Depreciation

EPS Recovery

Foreign Equity Inflow

Equity Re-rating

Asset Price Recovery

Governance Reform

ROE Reform

Shareholder Return Expansion

日本株再評価

このDriver Flowを見ると、 アベノミクス相場が 単なる金融緩和相場ではないことが分かります。

金融政策が為替を変えました。

為替が企業利益を変えました。

企業利益が海外資金を呼び込みました。

株価上昇が 日本株への評価を変えました。

さらに企業統治改革が、 一時的な円安利益から 持続的な企業価値改善へ 相場の物語を広げました。

しかしDriverの中に、次の調整要因も生まれていた

相場を上昇させるDriverは、 永遠には続きません。

円安が進めば、 輸入物価も上昇します。

株価が上がれば、 評価倍率も高くなります。

企業利益が海外需要へ依存すれば、 世界景気減速の影響も大きくなります。

外国人投資家の買いが相場を押し上げれば、 海外投資家の売りも 大きな下落要因になります。

さらに、 2014年の消費税率引き上げによって、 家計消費の弱さも表面化しました。

上昇Driver 内部に生まれた脆弱性
円安 輸入コスト・実質所得圧迫
外国人買い 海外Risk Offへの感応度上昇
輸出企業利益 世界景気・中国需要依存
株価上昇 評価倍率上昇
金融緩和 政策依存度上昇
資産価格上昇 実体経済との乖離

このフェーズを支えたDriverは、

そのまま次のフェーズの 脆弱性にもなった。

Part4の結論

アベノミクス相場では、 政策、 為替、 企業利益、 海外資金、 企業統治が 同じ方向へ作用しました。

政策転換が 円高レジームを修正しました。

円安が 企業利益を改善しました。

利益改善が 外国人投資家を呼び込みました。

企業統治改革が、 日本株再評価を長期テーマへ変えました。

しかし、 相場が成熟するにつれて、 中国需要、 世界景気、 海外資金、 政策そのものへの依存も 大きくなりました。

市場は、 日本の変化を買いました。

しかし次に問われるのは、 その変化が 世界景気の悪化にも耐えられるのか という問題です。

政策が、 未来の価格を変えた。

そして価格が変わったあと、

市場はその未来が 本当に実現するのかを問い始めた。

次のPartでは、 machine_phase、 フェーズ内部の進行段階、 中心銘柄群の変化、 そして2015年6月24日に アベノミクス初期レジームが成熟した理由を整理します。

Part 5

machine_phase

machine_phaseでは、 「アベノミクス」という政策名称を そのまま市場状態として判定しません。

観測するのは、 為替。

企業利益。

資金フロー。

評価倍率。

株主還元。

資本効率。

政策期待。

これらの変化です。

本フェーズの特徴は、 政策が直接企業利益を作ったというより、 政策期待が最初に市場価格を変え、 市場価格の変化が企業利益と企業行動へ伝播した ことです。

したがって、 アベノミクス相場では 「政策」 と 「市場」 と 「企業」 を 別々の階層として観測する必要があります。

machine_phase一覧

machine_phase 主な観測対象 構造的意味
Policy Expectation Shift 選挙期待、政策発言、為替、株価 政策実行前に市場の期待レジームが転換
FX Regime Repricing ドル円、実効為替、輸出株相対強度 長期円高を前提とした評価が修正
Monetary Expansion 日銀資産、マネタリーベース、国債買入 デフレ脱却への政策コミットメントが強化
EPS Recovery 企業利益、業績予想修正、営業利益率 為替・景気回復が実際の利益へ反映
Foreign Capital Inflow 投資部門別売買動向、外国人買越額 海外投資家が日本株再評価を主導
Equity Re-rating PER、PBR、TOPIX、日経平均 長期停滞ディスカウントが縮小
Public Equity Support GPIF、日銀ETF、国内機関投資家 株式市場の買い主体が多様化
Governance Repricing ROE、配当、自社株買い、社外取締役 株価評価が政策から企業価値改革へ拡張
Household Demand Weakness 実質消費、実質賃金、小売、家計支出 金融市場上昇と国内実体経済の乖離
External Growth Dependence 中国景気、世界貿易、輸出、製造業指標 企業利益が世界景気変動へ再び敏感になる

machine_phase Flow

Policy Expectation Shift

FX Regime Repricing

Monetary Expansion

EPS Recovery

Foreign Capital Inflow

Equity Re-rating

Public Equity Support

Governance Repricing

日本株再評価

一方

Household Demand Weakness

External Growth Dependence

初期アベノミクス・レジームの成熟

アベノミクス相場は、内部で四段階に進化した

2012年11月から2015年6月までを、 一つの状態として扱うことはできません。

政策期待。

政策実行。

利益回復。

企業価値改革。

相場の中心Driverは 段階的に変化しました。

段階 主要machine_phase 市場状態
第1段階 Policy Expectation Shift 政権交代と大胆な政策転換を先行して織り込む
第2段階 FX Regime Repricing / Monetary Expansion QQEによって円安・株高が政策期待から政策実行へ移る
第3段階 EPS Recovery / Equity Re-rating 円安効果と景気回復が企業利益へ反映される
第4段階 Governance Repricing / Public Equity Support ROE、株主還元、企業統治、需給改善が株価を支える

政策を買う

円安を買う

利益を買う

企業価値改革を買う

アベノミクス相場は、

政策期待だけで 三年間上昇したのではない。

政策相場が、 為替相場になり、 利益相場になり、 最後は企業価値相場へ進化した。

第1段階|市場は政策を先に買った

フェーズ開始時、 企業利益はまだ大きく変化していませんでした。

賃金も、 消費も、 設備投資も、 政策転換を十分には反映していません。

それでも株価は動きました。

為替も動きました。

市場が買ったのは、 現在の景気ではありません。

未来の政策 でした。

ここでは、 企業分析よりも 政策期待の変化の方が 相場への説明力を持ちます。

従来政策が続くという前提が崩れたことで、 円高と日本株低評価という 二つの長期ポジションが 同時に巻き戻されました。

第2段階|期待はQQEによって政策へ変わった

期待だけでは、 相場は永続しません。

市場は次に、 本当に政策が実行されるのか を確認します。

黒田日銀によるQQEは、 この確認に対する 明確な回答となりました。

大規模な資産買入。

2%物価目標。

デフレ脱却へのコミットメント。

市場は、 「今回は従来の金融緩和とは違う」 と評価します。

ここで、 Policy Expectationが Monetary Expansionへ変わりました。

第2段階の転換

期待だけだった政策レジーム転換が、 中央銀行の実際のバランスシート拡大によって 観測可能な政策へ変わった。

第3段階|円安が利益へ変わった

円安だけで株価が上昇している間は、 相場は為替期待に依存しています。

しかし、 決算に利益改善が現れ始めると、 相場の性質が変わります。

自動車。

電機。

機械。

海外売上比率の高い企業では、 円換算利益が改善します。

同時に、 世界景気の回復や 企業自身の事業再編も 利益率を押し上げます。

市場は、 「円安になるから買う」 から、

「実際に利益が増えているから買う」 へ移ります。

円安

利益予想改善

実績利益改善

EPS上昇

株価上昇の利益裏付け

第4段階|企業経営が株価材料になった

相場後半になると、 市場の評価軸はさらに変わります。

円安だけではない。

利益だけでもない。

利益を出した後に、 その利益をどう使うのか。

内部留保するのか。

設備投資するのか。

M&Aへ使うのか。

配当するのか。

自社株を買うのか。

企業の資本配分そのものが 株価材料になります。

ここで、 アベノミクス相場は 単なる政策相場から、 企業価値改革相場 の性格を持つようになりました。

中心銘柄群も、フェーズ内部で変化した

相場のDriverが変われば、 中心銘柄群も変わります。

初期には、 円高修正の恩恵を受ける 輸出大型株が注目されました。

その後、 金融市場活況を受ける 証券・金融。

資産価格回復を受ける 不動産。

企業改革を進める 電機・製造業。

そして、 資本効率改善や株主還元を示す企業へ 評価軸が広がりました。

相場段階 中心銘柄群 主要Driver
政策期待 輸出大型株・証券 円安期待・株式市場活況
QQE 自動車・電機・不動産・金融 円安・金融緩和・資産価格上昇
業績回復 自動車・機械・再編電機 EPS Recovery
企業価値改革 高ROE・増配・自社株買い企業 Governance Repricing

企業利益は改善した。しかし国内経済の弱さは残った

アベノミクス相場の株価上昇には、 企業利益という裏付けがありました。

しかし、 企業利益の改善と 日本経済全体の改善を 同じものとして扱うことはできません。

海外利益は増えた。

円換算利益も増えた。

株主還元も増えた。

一方で、 家計には別の景色がありました。

円安による輸入価格上昇。

消費税率引き上げ。

実質所得への圧力。

弱い個人消費。

企業利益と家計所得は、 必ずしも同じ速度で改善しませんでした。

企業部門 家計・国内需要
輸出利益改善 輸入物価上昇
EPS上昇 実質所得回復は弱い
自社株買い増加 消費回復は限定的
資本効率改善 名目賃金への波及には時間
海外成長 国内潜在成長率は低い

企業は強くなった。

株価も上がった。

しかし、

日本経済全体が 同じ速度で強くなったわけではなかった。

2015年、相場の問いが変わり始めた

2012年末の市場では、 最大の問いは 「政策は本当に変わるのか」 でした。

2013年には、 「金融緩和は本当に実行されるのか」 へ変わりました。

2014年には、 「企業利益は本当に改善するのか」 が問われました。

そして2015年になると、 市場の問いはさらに変化します。

「この利益成長は、 世界景気が弱くなっても続くのか」 という問いです。

企業利益は、 円安だけでは説明できません。

海外需要。

中国経済。

世界製造業。

商品価格。

米国金融政策。

グローバルな需要環境が より重要になります。

つまり、 国内政策レジームの変化を買ってきた相場が、 次第に 世界景気を確認する相場 へ変わり始めました。

なぜ2015年6月24日までなのか

Market History DBでは、 アベノミクス相場の終了日を 2015年6月24日とします。

この日を境界とする理由は、 アベノミクスが終了したからではありません。

金融緩和も続きます。

企業統治改革も続きます。

株主還元も その後さらに拡大します。

重要なのは、 市場を上昇させてきた 初期アベノミクスのDriverが 成熟したことです。

政策転換は、 すでに知られている。

QQEも、 市場へ織り込まれている。

円高修正も、 大きく進んだ。

企業利益改善も、 株価へ反映された。

ガバナンス改革も、 制度として動き始めた。

市場が次に必要とするのは、 新しい政策期待ではありません。

世界経済の中で、 その利益成長を持続できるという確認 でした。

そして、 その確認を難しくしたのが 中国経済の減速と 世界景気への警戒です。

フェーズ終了条件

アベノミクス政策が終わったことではない。

「政策が変わる」という期待そのものが 日本株を押し上げる初期レジームが成熟し、 相場の中心が 政策期待から 世界需要と企業利益の持続性へ 移り始めたことである。

Phase End Signal

2015年6月24日
政策期待から、世界景気と利益持続性の確認へ

政策転換期待

QQE

円高修正

企業利益改善

日本株再評価

企業統治改革

初期アベノミクス・レジーム成熟

中国景気・世界需要を確認

次フェーズ

成功条件が、次の脆弱性になった

アベノミクス相場の成功条件には、 外部環境も含まれていました。

外国人投資家。

世界的なリスク選好。

海外需要。

中国経済。

円安。

これらは、 日本株上昇を支えました。

しかし、 外部環境が逆転すれば、 同じ経路が売り圧力になります。

アベノミクス相場の成功条件 次フェーズでの脆弱性
外国人投資家の買い Risk Off時の海外資金流出
円安 追加円安余地への依存
輸出企業利益 世界需要減速
中国需要 中国景気減速
株価再評価 評価倍率調整
金融緩和 政策追加余地への疑念

日本は変わった。

だから市場は上がった。

しかし次に問われたのは、

変わった日本が、 弱くなる世界にも耐えられるのか。

Part5の結論

アベノミクス相場は、 一つの政策相場ではありませんでした。

最初に市場は、 政策転換を買いました。

次に、 金融政策を買いました。

その後、 企業利益を買いました。

そして最後には、 企業統治と資本効率を 評価するようになりました。

これによって、 長年続いてきた 「日本株は変わらない」 という評価は 大きく修正されました。

しかし、 政策転換を価格へ織り込んだ後には、 より難しい問いが残ります。

利益は、 円安なしでも増えるのか。

日本企業は、 世界景気が弱くても成長できるのか。

ガバナンス改革は、 本当にROEを高め続けるのか。

金融政策だけで、 物価と賃金を持続的に上げられるのか。

2015年夏、 市場の中心は この問いへ移り始めます。

政策が、 未来の価格を変えた。

そして価格が変わったあと、

市場は初めて、

その未来の中身を 確かめ始めた。

次の最終Partでは、 MHDB Classification、 アベノミクス相場が デフレ停滞期から何を変えたのか、 次フェーズへの接続、 そして記事全体の総括を行います。

Part 6

MHDB Classification

Market Cycle

政策主導・デフレ脱却サイクル

長期デフレと円高を前提としてきた日本市場が、 政策によって期待形成そのものを変え、 名目成長、企業利益、資産価格、 企業統治を再評価し始めた市場サイクル。

Market Phase

アベノミクス相場

政権交代期待と大胆な金融緩和を起点に、 円高修正、企業利益改善、 外国人投資家の資金流入、 公的資金による株式需要、 企業統治改革が重なり、 日本株が長期停滞ディスカウントから 再評価されたフェーズ。

Machine Phase

Policy Expectation Shift

FX Regime Repricing

Monetary Expansion

EPS Recovery

Foreign Capital Inflow

Equity Re-rating

Public Equity Support

Governance Repricing

Household Demand Weakness

External Growth Dependence

Human Phase

政策が、未来の価格を変えた

市場は、 景気が良くなったから 日本株を買い始めたのではありません。

政策レジームが変われば、 円高、デフレ、企業利益、 資本効率という 長年の前提そのものが変わる可能性を 先に買いました。

その期待は、 QQEによる金融政策、 円高修正、 企業利益改善、 企業統治改革を通じて 現実の企業価値へ接続していきました。

デフレ停滞期から何が変わったのか

構造領域 震災・円高調整相場 アベノミクス相場 レジーム上の意味
政策 危機対応・安定化 期待形成・デフレ脱却 守る政策から期待を変える政策へ
為替 超円高 円高修正 輸出企業利益の制約が緩和
企業利益 回復しても円高に抑制される 円安と世界景気でEPS改善 日本株上昇に利益の裏付けが加わる
外国人投資家 Risk Off時の売り主体 日本株再評価の買い主体 海外資金がレジーム転換を評価
株式需給 外国人資金への依存が大きい 公的年金・日銀・自社株買いが加わる 買い主体が多様化
企業統治 市場から改善を要求される段階 制度として企業経営へ組み込まれる ROE・資本効率が経営課題へ
市場心理 日本は変わらない 日本は変わるかもしれない 長期停滞ディスカウントの修正
家計 デフレ・低賃金 名目改善は進むが実質所得は弱い 金融市場と実体経済の乖離が残る

アベノミクス相場が本当に壊したもの

アベノミクス相場が最も大きく変えたのは、 株価水準だけではありません。

長年、 日本市場を支配していた 「日本は変わらない」 という前提です。

デフレは続く。

円高も続く。

企業利益は伸びない。

ROEは低い。

株主還元も増えない。

日本株は海外投資家から 構造的に低く評価される。

こうした前提は、 1990年代から長い時間をかけて 形成されていました。

だからこそ、 2012年末からの変化は 大きな価格調整を生みました。

市場参加者は、 新しい利益を買っただけではありません。

過去20年近く 積み重ねてきた悲観的な前提を 一つずつ修正しました。

長期デフレ

円高

低名目成長

低ROE

日本株ディスカウント

━━━━━━━━━━

Policy Regime Change

円高修正

EPS Recovery

Governance Reform

日本株再評価

アベノミクスが壊したのは、 デフレそのものだけではない。

最初に壊したのは、

「日本は変わらない」 という市場の確信だった。

しかし、価格を変えることと経済構造を変えることは同じではない

金融市場では、 政策期待によって 価格を短期間で変えることができます。

為替は、 一日で動きます。

株価も、 将来利益を織り込んで 短期間で上昇できます。

しかし、 実体経済の構造は それほど速く変わりません。

生産性。

潜在成長率。

人口構造。

労働市場。

賃金。

企業の設備投資。

新しい産業。

これらが変化するには 時間がかかります。

アベノミクス相場では、 金融市場の変化が 実体経済より先行しました。

これは失敗を意味するものではありません。

しかし、 政策期待による資産価格上昇と 持続的な経済成長を 同じものとして扱うこともできません。

比較的速く変わったもの 変化に時間がかかったもの
為替 潜在成長率
株価 生産性
企業利益予想 実質賃金
外国人資金フロー 家計消費
株主還元 人口構造
企業価値評価 国内需要構造

アベノミクス相場の内部矛盾

政策は市場期待を速く変えた。

しかし、 その期待を持続的な賃金、 消費、生産性、成長率へ変えるには より長い時間が必要だった。

企業統治改革は、このフェーズ後も残った

アベノミクス相場の中で形成された変化のうち、 一時的な市場要因と 長期的な構造変化を 分ける必要があります。

円安は、 為替環境が変われば反転します。

外国人投資家の買いも、 世界的なRisk Offになれば 売りへ変わります。

金融緩和への期待も、 政策が織り込まれれば 限界効用は低下します。

しかし、 企業統治改革は その後も残ります。

ROE。

自社株買い。

配当。

社外取締役。

スチュワードシップ。

政策保有株式。

資本コスト。

これらは、 一時的な相場テーマではなく、 その後の日本企業評価の基準として 定着していきました。

その意味で、 アベノミクス相場が残した 最も長期的なレガシーの一つは、 日本企業を資本効率で評価する市場構造 だったと言えます。

円安は、 いつか反転する。

金融緩和も、 いつか市場へ織り込まれる。

しかし、

資本をどう使うかという問いは、 企業経営に残った。

次フェーズへの接続

2015年夏、 アベノミクスそのものが 終わったわけではありません。

QQEは続いています。

企業統治改革も続いています。

政府の成長戦略も続いています。

しかし、 市場の問いは変わりました。

政策は変わった。

円も変わった。

株価も変わった。

企業利益も改善した。

では、 その利益は世界景気が弱くなっても 維持できるのか。

ここで、 市場の視線は 再び海外へ向かいます。

中国経済。

世界製造業。

資源価格。

新興国経済。

米国金融政策。

アベノミクス初期相場では、 国内政策が 海外環境より強いDriverでした。

しかし、 2015年夏からは、 世界景気の変化が 日本企業利益を左右する比重が 大きくなります。

Next Market Phase

中国ショック・世界景気調整相場

2015-06-25 –

中国景気減速、 人民元、 資源価格下落、 新興国不安、 世界製造業調整を背景に、 アベノミクスで改善した日本企業利益の 持続性が再評価されるフェーズ。

市場の問いは、

「日本は変わるのか」

から、

「変わった日本は、 弱い世界でも成長できるのか」

へ移ります。

アベノミクス相場が残したもの

残した構造 その後への意味
デフレ脱却政策 金融政策が物価期待を直接操作する時代へ
QQE 中央銀行バランスシートが株式市場の重要Driverへ
円高修正 日本企業利益の為替感応度を再認識
外国人投資家 日本株が世界資金フローへさらに深く接続
GPIF・日銀 公的資金が株式需給へ影響する構造
ROE改革 企業価値評価の中心指標として定着
ガバナンス改革 経営と資本市場の関係を制度的に変更
株主還元 配当・自社株買いが企業評価の重要要素へ

まとめ

アベノミクス相場は、 2012年11月14日から2015年6月24日まで続いた 政策主導・デフレ脱却サイクルのMarket Phaseです。

このフェーズは、 景気が良くなったから 始まったわけではありません。

市場が、 「日本の政策レジームが変わる」 と考えたことから始まりました。

長期デフレ。

超円高。

低い名目成長率。

低ROE。

低い株主還元。

日本株に長期間付いていた 構造的なディスカウント。

市場は、 これらが政策によって 変わる可能性を先に織り込みました。

政権交代期待は、 円高修正と株高を生みました。

QQEは、 政策期待を 実際の金融政策へ変えました。

円安は、 企業利益予想を改善しました。

企業利益改善は、 外国人投資家を日本株へ呼び戻しました。

株価上昇は、 政策への信認をさらに強めました。

その後、 アベノミクス相場は 単なる円安株高から さらに変化します。

JPX日経インデックス400。

スチュワードシップ・コード。

コーポレートガバナンス・コード。

ROE。

配当。

自社株買い。

持ち合い株式見直し。

市場は、 日本企業に 「利益を出せ」 だけではなく、

「資本を効率的に使え」 と求めるようになりました。

小泉構造改革相場で芽生えた 株主価値と資本効率の考え方は、 アベノミクス相場で 制度として企業経営へ組み込まれ始めました。

しかし、 金融市場と実体経済は 同じ速度で変化しませんでした。

株価は上がりました。

企業利益も改善しました。

一方で、 実質賃金、 個人消費、 国内需要、 潜在成長率の改善には より長い時間が必要でした。

2014年の消費税率引き上げは、 企業利益と家計景気の差を より明確にしました。

追加金融緩和や 公的年金の資産構成変更によって、 株式市場は再び上昇しました。

しかし、 相場が成熟するにつれて 市場の問いは変化します。

政策は変わった。

円も変わった。

利益も変わった。

企業経営も変わり始めた。

では、

その変化は、 世界景気が弱くなっても続くのか。

2015年夏、 市場の中心テーマは 国内政策期待から 世界景気と企業利益の持続性へ 移り始めました。

Market History DBでは、 このフェーズを次のように定義します。

アベノミクス相場

長期デフレと円高を前提としてきた日本市場が、 政策レジーム転換を先行して織り込み、 大胆な金融緩和、 円高修正、 企業利益改善、 外国人投資家の資金流入、 公的株式需要、 企業統治改革によって、 日本株に長く付いていた 停滞ディスカウントを修正したフェーズ。

市場が最初に評価したのは、 経済の現在ではなく、 政策によって変わる未来 だった。

世界金融危機では、

信用が、世界を止めた。

震災・円高調整相場では、

信用は戻った。

しかし、 成長は戻らなかった。

そして2012年末、

市場は、 危機の終わりを待つことをやめた。

政策が変われば、

為替が変わる。

利益が変わる。

企業経営が変わる。

日本そのものが 変わるかもしれない。

市場は、 その未来を先に買った。

政策が、未来の価格を変えた。

しかし、 価格を変えた後には、

もう一つの問いが残った。

その未来は、 本当に利益と成長へ変わるのか。

参考資料

  • 日本銀行「量的・質的金融緩和、物価安定目標、金融政策に関する資料」
  • 内閣府・政府「アベノミクス、三本の矢、日本再興戦略に関する資料」
  • 東京証券取引所・日本取引所グループ「JPX日経インデックス400、株式市場統計に関する資料」
  • 金融庁「日本版スチュワードシップ・コードに関する資料」
  • 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コードに関する資料」
  • GPIF「基本ポートフォリオ、資産運用に関する資料」
  • 財務省・内閣府「為替、企業利益、消費、賃金、景気動向に関する資料」
  • 日本企業のROE、配当、自社株買い、企業統治に関する公表資料

本記事におけるフェーズ名称、開始日、終了日、 Human Theme、Market Cycle、 レジーム解釈は、 Market History DB独自の分類です。

本記事では、 アベノミクスを上位の政策レジーム、 QQEをその内部の金融政策Driverとして区別しています。 アベノミクスと異次元金融緩和を 同一概念として扱わず、 政策体系と市場への伝播経路を分離して整理しています。

本記事のDriverおよびmachine_phase分類は暫定版です。 最新フェーズまで記事制作を一巡した後、 過去フェーズを横断比較し、 Driverの種類、階層、役割、 相互作用、machine_phaseとの関係を再構築します。

中心銘柄群は、 本フェーズの市場構造を説明する代表例として掲載しています。 個別銘柄の騰落率、主導期間、売買代金、 指数寄与度については、 今後の横断リライトで市場データを用いて再検証します。

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